制服記

いつまでも不自由を愛さないでね。

生活、つまり1K

生活力が皆無に等しい私が1人暮らしをはじめた。もう2年前の話か。

望んだ大学に入った私が晴れた気持ちだけで新生活を始められなかったのはきっと1人暮らしを始めたからだ。不安だった。近くに誰もいない、誰も助けてくれない、仲いい友達もすぐには会えない、ホームシックにかかったことのない私も家族がいないことの孤独を痛感することになった。

死ぬほど泣いた。毎晩毎晩夜が深くなるにつれてどこからか湧き上がる劣等感、無力感、自己嫌悪、孤独。すきな音楽も助けてくれなくて、友人に電話しても次の日にはまた同じように沈んでいた。

人間の情けないところを見た。私は酒癖が悪いし、男はすぐ手を出してくるし、憧れのひとは優しいし、すきな人は思ったより弱い。信じていたのに、なんて泣き寝入りするよりも強く生きていこうと思った。そのかわりに優しくて穏やかな自分が削られたんだろう。

朝の明るい日差しにときめいた。泣いて疲れて、自己嫌悪して疲れて、感傷に浸って疲れて、沈むように寝ても、起きれば明るい日差しがどうにか私を歩かせる。まるで昨晩の鬱が嘘のようにしゃんといれる朝も、泣いた痕跡がひどい目の腫れになってなんとなくちょっと暗くてでも爽やかな朝もあった。

この1Kははじめての私だけのシェルターだった。私だけが知っていることが必然的に増えるこのシェルター。誰にも言えないことなどあまりないけれど、すべてを知っているのは明らかに私だけだった。それと、この部屋。

明るいね、だとか、キラキラしてるね、だとか言われた裏にある涙や自己嫌悪を知っているのはこの部屋だけ。酒癖悪いんだよね、とへらへらする私が幾度の失敗をし、幾度の甘い記憶をつくっているかを知っているのも。私の都合のいい改変も、汚い気持ちも、自分のために流した涙も、この部屋と私だけの秘密。ひとが嫌いになったらここに戻ればよかった、寂しくなったらここに呼べばよかった、どんな疲れもとりあえず帰って寝れば回復できた、私に何があろうと私を責めないで守ってくれた。

そんな部屋ともあと3日で別れる。

四角くて、均質で、無機質で冷たい。小さくて、穏やかで、日射しがさして優しい。2年なんて一瞬だ。ただこの一瞬は、とても汚くて苦しくてでも何度も挑戦した、忘れられない2年間、はたまた青春。この部屋はまた誰かの生活を見守って、私は別の部屋と歩き出す。